突然に美容師免許が必要とされた通達内容を検証
20年3月7日(健衛発第0307001号)
まつ毛エクステに関する厚生労働省課長の通達
【解説】
日本における「まつ毛エクステンション」は、1998年・平成10年頃。「植えまつ毛」というネーミングで登場し、主にエステティックサロンにおいてサービスが開始された。その後、「まつ毛エクステンション」とネーミングが改められて普及し、エステティックサロン、美容室、まつ毛専門サロンなどで施術されるようになっていく。
1998年・平成10年当時から2008年平成20年3月7日までは、「まつ毛エクステンション(まつ毛パーマも含む)」を施術する技術者には、何の資格も必要なく、商材販売業者などの研修で理論と実技を学べば誰でも施術することができた。しかし、サービスでお金をいただくためにはプロとしての技術レベルを要求されるので、下手な人は当然、淘汰されていくことになる。プロとしての技術レベルの統一がなく、衛生管理・安全管理などの規制もなかったために、様々なトラブルも発生した。
2008年・平成20年2月21日
東京都生活文化スポーツ局生活部(都の消費者センター)
「まつ毛エクステンションによる危害」を調査発表
使用されている「接着剤」が問題 なので情報提供する!
【調査発表の主な内容】
東京都が発表した概要は「まつ毛エクステの流行により、全国の消費生活センターへの危害相談も増える傾向にある。まつ毛エクステは法的規制がなく誰でも行うことができるため店舗数が急増した。それに伴い施術水準の低い店舗が増加していること、まつ毛エクステに使用される接着剤は、配合成分に関する表示に法的義務がないため成分不明のものがあり、目に入った場合やアレルギーに対する対応がなされない等が考えられる。そこで東京都では、まつ毛エクステによる危害の拡大を防止するため消費者情報を提供する。
過去10年間で全国に寄せられた危害相談は36件。東京都で受け付けた危害相談は6件。その内容は「施術後にすぐ目が充血した。診察の結果、接着剤がけん引と判明」、「接着剤が目に入り、角膜炎とドライアイになった」、「施術を受け結膜炎のように目が赤くはれた」、「施術を受けてまぶたが痛み、まつ毛の半分が損傷した」。まつ毛エクステで使用されている接着剤に問題がある。
【解説】
このことに関して東京都は、厚生労働省・経済産業省に情報提供。関連業界団体に要望。都内各市町村の消費者関連部署に情報提供した。
※2008年当時のまつ毛エクステの被害は、過去10年間、全国で36件、東京都で6件である。この調査で東京都は、実際にはその20倍~30倍あると推測していた。
2008年・平成20年3月7日(健衛発第0307001号)
東京都の情報提供を受けた厚生労働省生活衛生課が
「まつ毛エクによる危害防止徹底について」を通達
【通達内容】
今般、東京都生活文化スポーツ局消費生活部長より、別紙のとおり、近年のまつ毛エクステンションの流行に合わせて、消費生活センター等へ寄せられる危害に関する相談件数が増加し、まつ毛エクステンション用の接着剤による健康被害がみられるとの情報提供がされたところである。
貴職におかれては、管下の美容所等において、かかる行為により事故等のおこることのないよう営業者等に対し周知徹底を図るとともに、再度、本職通知の趣旨に基づき、美容業務の適正な実施の確保を図られるよう、特段の御配慮をお願いする。
なお、美容師法第2条第1項の規定において、美容とはパーマネント・ウエーブ、 結髪、化粧等の方法により容姿を美しくすることをいうとされており、通常首から上の容姿を美しくすることと解されているところである。ここでいう「首から上の容姿を美しくする」ために用いられる方法は、美容技術の進歩や利用者の嗜好により様々に変化するため、個々の営業方法や施術の実態に照らして、それに該当するか否かを判断すべきであるが、いわゆるまつ毛エクステンションについては、①「パーマネント・ウエーブ用剤の目的外使用について」(平成16年9月8日健衛発第0908001号厚生労働省健康局生活衛生課長通知)において、まつ毛に係る施術を美容行為と位置付けた上で適正な実施の確保を図ることとしていること、②「美容師法の疑義について」(平成15年7月30日大健福第1922号大阪市健康福祉局健康推進部長照会に対する平成15年10月2日健衛発第1002001号厚生労働省健康局生活衛生課長回答)において、いわゆるエクステンションは美容師法にいう美容に該当するとされていることから、当該行為は美容師法に基づく美容に該当するものであることを申し添える。
【解説】
同通達(健衛発第0307001号)において
「当該行為は美容師法に基づく美容行為に該当する」という文書が最後に付け加えられただけで
まつ毛エクステに美容師免許が必要とされたまさに青天の霹靂!理解に苦しむこじつけ
まつ毛エクステに関する危害情報を受けた厚生労働省健康局生活衛生課は、直ちに次のような課長通達を発表した。
厚生労働省健康局生活衛生課課長が出した通達(健衛発第0307001号)は、これまでのまつ毛エクステ業界にとって、まさに晴天の霹靂といえる衝撃を与えることになった。それまで、まつ毛エクステやまつ毛パーマを施術するのに、何の資格も必要とされなかったのに、突然、美容師資格が必要とする文面が加えられたのである。同通達では、「東京都がまつ毛エクステに関する危害情報を発表した。貴職おかれては、管下の美容所等で事故などが起きないよう徹底するように」という内容である。ここでいう貴職とは、主に保健所の事である。
そして美容師法における美容の範疇を示す条文をあげる。美容師法における美容の範疇は、新しい美容方法の開発や美容技術の進歩などによって変わってくる。そのため、美容関係者は、美容師の免許がどこまで有効なのかという疑義を管轄官庁である厚生労働省健康局生活衛生課に文書で質問し、同課長名で回答することになっている。
東京都は、今回の「まつ毛エクステの危害」において、使用されている「接着剤」に問題があるとして、厚生労働省に情報提供しているが、美容法の範疇やまつ毛エクステにおける美容師免許の必要性などは一切質問していない。それにもかかわらず、かかる通達では「まつ毛エクステは美容の範疇」という文書を付けたし、美容師免許を必要という見解を示した。その根拠として、同通達ではこれまで美容師法の疑義について回答した、「平成16年9月8日健衛発第0908001号」、「平成15年7月30日大健福第1922号」、「平成15年10月2日健衛発第1002001号」を示している。
しかし、この3つの通達内容は、いずれも「まつ毛エクステ」に関係なく、何故それを根拠に「まつ毛エクステ」に美容師免許が必要と判断されたのか理解できない。
ちなみに「平成16年9月8日健衛発第0908001号」は、「パーマネント・ウエーブ用剤の目的外使用について」という通達で、パーマネント・ウエーブ用剤でまつ毛パーマを行ってはならないという内容。
「平成15年7月30日大健福第1922号」は、フェイシャルエステと呼称するいわゆる美顔術やエステティックが理美容師法における関係について現時点での解釈を文書で求めたもの。
「平成15年10月2日健衛発第1002001号」は、その質問に回答した通達で、まつ毛エクステとは全く関係ない。